2001年 第2次西域南道探検隊 "らくだの旅"日記


記 長谷川 進


9月18日(火) 満天星のちょう高級ホテル


 夕べはちょっとはしゃいで飲み過ぎたかな。朝のごはんは控えめだな。今日も天気は上々だ。

 昨日の転落事故で怖じ気づいたのかラクダの乗り手は1班が5名、2班が6名に減ってしまった。初日と同じラクダ=ジロウに乗れた。ジロウはおとなしい、頭のいいラクダで、私のことを好いてくれているようだ。と自己暗示をかけて。

 10頭のラクダは紐に数珠つなぎになっている。どのラクダも顔に紐をかけられ、1.5mくらいの長さで前のラクダの鞍に結ばれている。先頭のラクダの牽き綱はカースンが握る。ラクダは膝を折って正座する。南京袋の鞍の上には座布団を敷くが尻が擦れて痛くなる。

 昨日の転落事故で乗り方に注意があった。足は両脇に垂らしてきちんと座ること、足を鞍の丸太の上に乗せるのは禁止という申し合わせだ。それを忠実に守るとずっとがに股になり、足には結構つらい姿勢が強制される。

 

  風もなく見通しがいい。遠くに見えていたアルキン山脈がグーンと近づいた。奥の方では白い雪の冠を頂いた高い山が青空に映えて美しく輝く。昨日と同じような砂利まじりの砂漠が続く。この砂漠を蒙古語で"ゴビ"というそうだ。

 

 小さな川が流れていた。砂漠にこんなにきれいな川がと驚くほど澄み切った水が流れていた。4日ぶりの清水にだれもが子どもに帰ったように大はしゃぎだ。顔を洗うもの、タオルを浸して体を拭くもの、中には洗髪するものまでいた。日本でなら、手に掬ってゴックンゴクと飲んでいただろう。だが中国大陸では、生水は禁物、硬度が高くてすぐにハラピーになってしまうのだ。数字は難しいが調べた人の話で800ppmもあるとか。

 大きなスイカが水の中に浮かべられた。昼ごはんは「マントウ・ソセージ・ジュース・リンゴ・ゆで卵」の定番。オレンジジュースに赤い箱のアップルが加わっただけでも新鮮に感じる。大きなスイカが配られた。水辺で食べるスイカは格別の味だ。

 午前中はサングラスが見つからずちょっと眩しかった。背負ったサブザックの奥の方から出てきた。サングラスを通さない色合いもいいものだが、西に向う旅なので午後になると眩しい。砂漠では、サングラスは必需品である。

 昼ごはんのあとには大仕事が控えている。睡魔との闘いである。腹がきつくなると目の皮が弛んでくる。両手の紐をしっかりと握り締め、「ハハーイ・ハイ」と大きな掛け声をかけて睡魔を追い払う。前にぐらりと揺れ、後ろの手の紐がピーンと張る。ハッと目覚める。ラクダは背が高いから落ちたら大ケガだ。

 記録係のデーターによると今朝の気温は9度、湿度は17%、高度は1300mであった。午後になると気温はうなぎ上りになり、40度以上にもなる。だが湿度が低いので汗ばんでも肌はサラッとしている。ほうき曇が三筋、東に向って流れていた。青い空に浮ぶ白い雲はもうすっかり秋を告げている。昨日は午後4時ころから風が強くなったが、今日もその時間が近づくとだんだん風が強くなってきた。

 ジロウは歌が好きだ。眠気覚ましに歌を唄うと聞き耳を立てる。月の砂漠、みかんの花の咲く丘、ともしび、と思いつくままに大きな声で唄うとときどき後ろを振り向く。ラクダの背の上ではできるだけ声を出してくれといわれている。臆病なラクダはその声を聞いて安心すると言う。

 ジロウはいつも左側にはみだして歩く。前のラクダの真後ろは嫌いみたいだ。そして、よくつまみ食いをする。自分の口の届く範囲に木や草があるとパクパクと食べている。棘だらけでも平気だ。

 歩行団も歩き慣れて来て順調な足取りだ。午前中は一団になつて歩いていたが、午後になると縦に長くなり、速いものははるか彼方に豆粒のように見える。ラクダはせいぜい時速5キロの速さだから、時速6キロ以上で歩く先頭集団には遥かに離されてしまう。

 ラクダの上は見通しがいい。目の高さは3mにもなるだろう。左右に並ぶ電信柱は何本もの電線を延ばしながら、地平線の彼方に消えていく。宮澤賢治の童話にたくさんの電信柱が夜中に歩き、走り、踊りだす物語があったが、そんな光景が目の前におこりだしだ。

 長い橋、その下はかなり大きな川、清流が流れていた。川原には大きな石がゴロゴロしていた。レンガ積みの塀が見える。急坂でラクダが白い泡を吹いている。ラクダも大分ばてているようだ。坂を上ると「若江沙依」道班の事務所があった。この事務所のホールが今日の宿泊地だった。

 

 トレーナーをみると黒地に白く点々とシミが付いている。ラクダの唾が飛んで来たのだろうか。川の流れでズボンを洗濯した。休息日を一日繰り上げて、ここで連泊ということになった。ラクダに水を飲ませ、草を食べさせて休養させたいということだ。

 中国隊が小遣い稼ぎに売店を開店するという。缶ビールが10元、ジュースが8元だ。これはちょっと高いぞ。だが、若い隊員たちの小遣い稼ぎなら協力だ。開店式、最初のお客さんは最長老の岡野さん。10元でビールを買って店は始った。私もさっそく缶ビールを買ってグ・ビ・グビ・ググーと一気に飲み干した。ウマイ。

 午後は相変わらず風が強い。干しておいたズボンがクルクルと風に舞っている。夜は庭のコンクリートの上にマット・シュラフカバー・シュラフ・シーツを重ねて潜り込み、満天星ホテルと洒落込んだ。星が明るく、大きく輝いている。ほどよい酔いに誘われていつの間にかぐっすりと寝込んでいた。

 夜中に寒くて目を覚まし、廻りを見回すと8つのシュラフが並んでいた。改めてシュラフのジッパーをジジッとあげて頭まで潜り込んで寝入った。気温は10度以下だ。


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