今日はラクダに乗る日だ。尻の皮もなんとか新しく張りかわったようだ。戸田さんの毛布と座布団を借りて尻を保護することにした。背の高いラクダの上で何枚もの敷物の上に座ると王様の気分だ。
大森さんがラクダ使いのカースンに命令している。「カースン、このまま真っ直ぐ砂漠の中を歩いた方が近いよ」手振り身振りの話に、気の弱いカースンはうなずきながら従う。これ以後"ラクダつかい"使い、と大森さんは呼ばれるようになった。 確かに、われらがカースンは親方やもう一人の親方の甥に遠慮して自分の意志を示さないのでちょっとがんばってもらいたい。
ラクダの旅の醍醐味は、ふかふかの砂の上を悠々と歩いていくことだ。道路ばかりでは物足らない。だから、近道と分かるときはぜひ、砂漠の中を歩いて欲しい。でも、時にはその先が急に深い川にぶつかることもある。油断は禁物だ。
午後になって車の動きが慌ただしくなった。阿部さんが尿道結石で苦しみ、急遽入院ということになった。チェルチェンの病院にはMさん、佐藤さんがいるので3人目の患者である。看護婦の西脇さんが付き添って行った。
午後からはいつも風が強くなるが、今日は特別だ。砂嵐が目や顔を直撃して、目を開けていられないほどのこともある。ラクダは風が強くなると防備のために突然座り込んでしまうこともあると言う。午後は全員が歩くことになった。歩けない者はバス移動ということだ。砂嵐は北東から吹き付けてくる。西に向っているので斜めからの追い風だが、タオルで顔を隠していてもピシピシと砂粒がぶつかっていたいほどだ。
足元を見ていると道路の上を金色の糸が何本もススーと走っていく。それは金色の砂の流れなのだ。視界は300mも無い、50m間隔に並んでいる電柱が数本しか見えない。車も通らなければ、山も川もない。あるのは飛んでくる砂つぶてだけである。
マスクにしたバンタナから砂の匂いが伝わってくる。顔を保護しているタオルが砂で重たくなる。まわりは薄ぼんやりとした黄土色の風の世界だ。道路の向きが変わると、風がまともに背中を押してくれる。砂嵐はつらいが、追い風はありがたい。
目の前を3羽の小鳥がさえぎった。というよりは風にあえいでばたばたとしていたのだ。行きたい方向に行けないもどかしさを見せながらもがんばって飛んでいる。あの、スススーと飛ぶように歩くトカゲはこの砂嵐をどのように受け止めているのだろう。