2001年 第2次西域南道探検隊 "らくだの旅"日記


記 長谷川 進


9月27日(木) 歌声喫茶ともしび繁盛記



 もう天気を書くのはやめたい気持ちだ。砂あらしの日のほかはいつも晴れ。それも快晴だ。さっと掃き流すような白いほうき雲が秋の訪れを知らせてくれる。こちらでは、まだひつじ雲は見ていない。日本ならさしづめいわし雲が空を飾っているの季節なのだが。

 午前は15キロ。もう休憩についての指示はない。一気に15キロ歩いてしまおう。相曽さんを先頭に、長谷川、大森さん、戸田さんがいつものトップグループ、そこに植松さんがザックザックと規則正しい靴音を伝えてくる。

 突然のように竹内さんがピッチを上げたりするがすぐにバテて後退して行く。辻さんも歩きではがんばっているがスタミナ不足は目に見えている。亦平さん、矢野さん、新井さんなどがその後に続く。伊藤さんも、佐久間さんも足のマメで悩んでいる。中村さん、浅輪さん、滝沢さんはマイペース。荒木さんや高澤さんはビデオ撮影に夢中だ。長澤さん、宮田さん、村山さん、梅原さんはいつも別行動だ。阿部さん、佐藤さんはまだ車の中でじっと我慢の最中だ。もう少しだよ。

 隊長が隊に戻ってきた。歩いている途中のところで出会った。ウルムチからコルラまでは汽車で移動し、コルラから砂漠の中央を走る高速道をタクシーで走り、今朝早くニヤからヒッチハイクした車に乗って来たのだ。Mさんはウルムチから北京までは70人乗りの飛行機をチャーターして送り出し、その後は北京から医療用の小型ジェットで福岡空港に向ったという。福岡日赤にはお兄さんが勤めているとか、後は日本の医療体制に任せるだけだ。

 景色は相変わらずだ。ただ、このあたりは砂というよりは乾いた泥といった方が正確なのではないか。道端のヨシの原っぱに入るとズボッズボッと足首まで沈んでしまうほど柔らかで、モヤモヤッと土埃が舞いあがる。休憩も道路脇には入れないので小石だらけの通りに座り込む。昼前などは休みなしに歩く先頭集団と、バテバテで歩く最後尾とでは1時間以上も差が付いてしまう。だから、靴を脱ぎ、靴下を脱いで裸足で足を乾かす。さすがに砂漠だ。脱いだ靴下はあっというまに乾いてしまう。

 足も、もっと臭くなるかと思ったが意外に臭くない。マメも左の後ろに一つできただけで調子がいい。中には1日おきに足を休めている「マメ夫くん」もいたようだ。




 ラクダもずいぶん疲れているように見える。乗っている人の話ではガックンガックンと石につまづいて膝を落とすやつもいたとか。そうだろう、初めての人乗せ体験、ラクダだって「ラクダ、楽だ」などとは言っていられないだろう。




 午後は17キロ、今日は一日風景がかわらない。真っ直ぐな石だらけの道、ぱさぱさに乾いた泥地のヨシ、無数に開いている道路脇のネズミの穴、無風、ガンガンと照りつける太陽。17キロ地点で後続を待ち、ラクダ組を待ち、バスに乗った。ここからは全員がバス乗車。埃をもうもうと後ろになびかせながら道班に向った。

 道班の中庭は手入れが行き届いていた。注意があった。きれいに並んで植わっているナツメにはおいしそうな実がたくさんなっているがこれは大切に育てたものなので採らないで欲しいということだ。この砂漠のなかで育てた大切な果物、こんな注意が必要なこと自体残念だ。「李下に冠を正さず」か、という高校時代の漢文の授業を思い出してしまった。

 ナツメは生で食べてもおいしいが、干したナツメは甘みも増してもっとおいしい。漢方としては下痢止めに効くと聞いた。但し、精力減退もというからほどほどかな。

 ここの道班の入口にも清真食堂があり、入口の前には半分ほどに削ぎ落とされた羊の肉が釣り下げてあった。シシカバブのいろりに火はなかった。晩ごはんをすませ、散歩に出ると道班の前に定期バスが止まっていた。"珍しく"などというと叱られてしまいそうだが、とてもきれいなバスで中を覗くと2段ベッ
トが通路の左右に並んでいた。24人くらいが乗れるのだろうか、乗客たちは食堂でうどんを食べ、お茶を飲み一休みしていた。

 小学生くらいの少年がヒマワリの種を食べていた。「おい、じいにも食わしてくれ」と手を出すと数粒くれた。お礼にポケットにあった方向磁針をあげると、大喜びでヒマワリの種を全部くれようとした。プラ笛は退屈しているバスの乗客に大もてだった。乗客たちの何人かにプラ笛を分けて上げたがだれも吹けなかった。

 中国隊も遊びに出てきた。伊藤さんを呼び、ドクターとのハーモニカ合奏を楽しんでもらった。中国の青年たちも気持ちよくはやりの歌を合唱して答えてくれた。歌声喫茶「ともしび」の出店である。

 外は爽やかだ。夕方からは長袖が必要なくらい涼しく、夜更けには寝具に潜り込むほど寒くなる。今日も外にシュラフを持ち出して寝ることにした。私の小隊だけでも6名、大きな中庭にはシュラフが12も並ぶことになった。



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